Interview

環境経営のトップランナーであり続けるPatagoniaのディレクターが語る、「エコペット」を選んだ理由とは。

機能性・耐久性に優れたウェアを作るとともに、環境問題にも独自のスタンスで取り組み続けているPatagonia。同社は環境負荷を軽減するリサイクル素材として、「エコペット」を採用している。その理由と、環境に対する理念について、素材イノベーション部門のディレクターを務めるRobert Naughter氏に話を聞いた。


– Patagoniaの環境方針を教えてください。

私たちのミッション・ステートメントは、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む(We are in business to save our home planet)」というものです。私たちは、環境を良くしていくために、現在持っている資源、すなわちPatagoniaのビジネスや投資、発言力、および想像力を使っています。

コアバリュー
私たちの価値観は、クライマーやサーファーたちがはじめたビジネスの価値と、彼らが自身の生活とスポーツで高めてきたミニマリズムの流儀を反映しています。私たちの製品デザインにおける考え方では、シンプルで実用的であることを重視しています。

最高の製品を作る
製品についての私たちの基準は機能性、修理可能性、そして何よりも重要な、耐久性です。生態系への影響を最小限に抑える最も直接的な方法のひとつは、何世代にもわたって使用できる、あるいはリサイクル可能な製品です。それにより素材が長く使われます。最高の製品を作ることは、惑星を救うことに貢献するのです。

不必要な悪影響を最小限に抑える
私たちのビジネスも、店内の照明から製品の生地の染色にいたるまで、何らかの形で環境に影響を与えています。私たちは絶えずビジネス慣行を変え、学んできたことを共有しています。しかしそれだけでは十分でないことも理解しています。環境に与える悪影響を最小限に抑えるだけでなく、環境をより良くすることも目指します。

ビジネスを手段に自然を保護する
私たちの社会が直面している問題には優れたリーダーシップが必要です。一旦問題を認識したら、私たちは行動を起こします。リスクを進んで受け入れ、生命網の安定性と全体性と美を守り、修復するために、私たちは活動します。

従来のやり方にとらわれない
私たちの成功、そして楽しみの多くは、新しい方法を開拓することにあります。

– 1991年にPatagoniaは自社の環境負荷の調査を行っていますが、なぜ、そのような早い時期からテキスタイルの環境負荷に注意を払うようになったのでしょうか?

調査の目的は、Patagoniaの生地選定および製品開発・製造などが環境へ及ぼす影響を段階的に少なくしていくため、そうした影響を体系的に評価することにありました。具体的には、Patagonia製品に最も多く使われている素材、ポリエステル・ウール・ナイロン・コットンについて、ライフサイクル全体でどこに環境リスクがあるのか評価を行いました。なぜなら、ビジネスを行う上で及ぼしている環境負荷を理解したかったからです。

– Patagoniaのカーボンニュートラルに対する考えや取り組みを教えてください。

私たちは責任ある企業として、地球の健全性のために気候変動に取り組むことが極めて重要だと考えています。その取り組みの一つが、自分たちが生み出しているカーボンフットプリントを理解することです。私たちは、Patagoniaの温室効果ガス排出量のおおよそ95%が衣料品の製造と輸送によるものだと認識しています。Patagoniaは、人びとと地球への影響を減らすため、ビジネス全体に渡ってカーボンニュートラルになることを目指しています。カーボンニュートラルの達成はとてもチャレンジングで、ビジネスのあらゆる面で排出量を抑えることが求められます。私たちが直接所有、あるいは運営する施設で再生可能エネルギーを使用したり、温室効果ガス排出量ができる限り少ない素材を採用するとともに、サプライチェーンと協力してエネルギー消費の削減、再生可能エネルギーの使用などに取り組んでいます。

– Patagoniaの環境課題に対する具体的な取り組みを教えてください。また、それらはどのような影響をお客様に与えていると考えますか。

カーボンフットプリントを測ることで、環境への影響を減らしていくために取り組まなければならない行動が明らかになりました。全体的なカーボン・アセスメントが完了したことで、ビジネスの中で特に環境負荷の高い要素を突き止めることができました。私たちは、新しい製品を作ることで、環境負荷をビジネスから取り除くことを学んだのです。そして、できるだけ環境負荷を減らすために、リサイクルポリエステルやリサイクルナイロン、オーガニックコットン、リジェネラティブオーガニックコットン、リサイクルコットン、リサイクルウールのような、望ましい素材を使うことに焦点を当てるようになりました。これらは、従来のものと比べてカーボンフットプリントが少ないからです。Patagoniaにはイノベーション・チームがあり、そこでは、従来の繊維産業で使われてきた石油由来の素材に替わる、よりカーボンフットプリントが少ない素材の研究が行われています。

さらに私たちは製品を使用し続けることのできる期間を延ばす、Worn Wearプログラムを拡げています。このプログラムでは、製品のリペアや古着の販売、衣料品のリサイクルなどのサービスをお客様に提供しています。また、Patagoniaは1985年以来、自然環境の保護および回復のために売上の1%を利用することを誓約しています。これまでに、1億4,000万ドルを超える寄付を、米国内外の各地域で変化をもたらしている草の根環境保護団体に行ってきました。

– ポリエステルの使用に関する目標はありますか?

Patagoniaの目標は、100%リサイクルポリエステルへと切り替えることだけでなく、化石燃料への依存を減らすことを可能にする技術を継続的に改善し、そのインパクトを軽減することです。私たちの調査では、Patagoniaのカーボンフットプリントの86%以上はサプライチェーンから発生しているということが分かっています。これは、私たちがリサイクル素材にフォーカスし、「エコペット」のようなリサイクル原料を使用する主な理由の1つです。

それは、あらゆる産業を視野に入れながら、影響が大きい地域からのペットボトルだけではなく、裁断くずや、焼却場や埋立地行きになっている寿命後の衣料品などを原料として、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルなどの手段によりポリエステルの再生にフォーカスするということです。私たちはこのようなポリエステルの原料に焦点をあてていることに加えて、可能な限り長く使用できる製品をつくるとともに、将来リサイクルすることも想定しながら製品のデザインを行っています。

私たちの最も重要な目標は、リサイクルポリエステルをより多く使用することだけではなく、より責任あるビジネスを誰もが行い、利益を上げることができるということを示すことで、業界に刺激を与えることです。なぜなら、私たちPatagoniaだけでは地球を救うことはできないからです。

– Patagoniaのポリエステル製品のうち、リサイクルポリエステルは何パーセント使用していますでしょうか。バージンポリエステルを使用している場合、その理由を教えてください。

2020年の時点でPatagoniaは50%にリサイクルポリエステルを使用しており、2025年までにその比率を100%にすることを目標としています。しかしながら、すべてのポリエステルをリサイクルしたものに置き換えることは困難であり、新しい技術を使った数パーセントのポリエステル製品はバージンポリエステルを使用する必要があるでしょう。その場合は、その製品が環境に及ぼす影響がより少ないことを証明する必要があると私たちは考えています。

– Patagoniaは、いつから「エコペット」を使用していますか。また、「エコペット」を採用するようになった理由は何ですか。

Patagoniaがリサイクルポリエステルを使い始めたのは、その使用がトレンドとなるずっと以前の1993年からであり、「エコペット」は2000年代初期から使用しています。さらに2005年の秋には、帝人フロンティアとの協業で「つなげる糸リサイクルプログラム(Common Threads Garment Recycling program)」を立ち上げました。このプログラムは、お客様に使い終わったPatagonia製品を返却していただき、それらをリサイクルするというものです。このリサイクルシステムの一部において、使い古されたPatagoniaのポリエステル製品「キャプリーン・ベースレイヤー」を帝人フロンティアの日本の工場で新しい糸として生まれ変わらせるリサイクルを実現させました。これは、帝人フロンティアのポリエステル繊維製品の循環型リサイクルシステム「エコサークル」を活用した取り組みとなります。

「コモンスレッズ・イニシアティブ」は、下記の5つの原則から成り立っていました。
REDUCE:購入を減らす
REPAIR:修繕が必要なものはリペアする
REUSE:必要のなくなった製品を再利用する
RECYCLE:使い古した製品を新しいものにリサイクルする
REIMAGENE:環境負荷の少ない素材を必要な分だけを使うため、サプライヤーや他のブランド、お客様と手を組む未来を再考する

現在、Patagoniaはリサイクルポリエステル素材を100%使用することを目指しています。帝人フロンティアの「エコペット」は、業界に先駆けて廃棄されたペットポトルや服、繊維くずを再生させることに成功しており、Patagoniaだけでなくアパレル産業全体にとっても重要な存在です。「エコペット」の高い品質は、機能や耐久性、手触り、デザインの美しさを犠牲にすることなく、これまでと同じようにPatagoniaが優れた製品を作ることを可能にしています。

– 社内や顧客から「エコペット」に対する感想や要望はありますか。また、今後ECOPETに求めることは何ですか。

Patagoniaのお客様が私たちに望んでいることは、最高の製品を最小限の環境負荷で作ることです。さらに、近年私たちのミッションは「故郷である地球を救う」という、より大局的かつ大胆なものへと変化しました。この難しい目標を達成するために、私たちは成功するということについて視野を広げましたが、帝人フロンティアのようなサプライヤーの「エコペット」のような糸をさらに必要としています。

アパレル及びテキスタイル製品のメーカーとして、私たちは衣料製品や生地の寿命尽きたときに、それらがどのような道筋をたどるかまで考える必要があります。もしその答えが「分からない」であるならば、分かるまでその製品を作るべきではないのかもしれません。ポリエステルはとても素晴らしい素材であり、私たちの生活を変化させてきましたが、責任あるメーカーや消費者であるならば、使い終わった製品を単純に燃やしたり埋めたりするべきではないと考えています。

私たちは、帝人フロンティアの技術がより一層進化し、廃棄物やリサイクルの社会基盤が発展途上の地域で集められた繊維ごみやペットボトルごみなどが原料として使用された「エコペット」を作ることが可能になることで、より一層地球環境への負荷を減らす事ができれば素晴らしいと考えています。

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