Interview

CFCL高橋悠介氏が語る「コンピュータープログラミングニットの可能性と『エコペット』を選んだ理由」。

現代の生活に寄りそう洗練されたデザインでありながら、ファション業界においてサステナビリティへの取り組みをリードしているCFCL。

国際的認証であるB Corporationを日本のアパレルブランドで初めて取得したCFCLは、ホームページ上でもシーズンごとの認証素材(地球環境や人権に対して配慮していることが公的機関により認証された素材)の使用率を公開しており、VOL.7 Collection (2024年春夏)では90.52%と高い数値となっている。

そしてCFCLの多くの製品に「エコペット」が採用されているという。

クリエイティブディレクターである高橋悠介氏に、ブランドの哲学やサステナビリティに対する考え方、そして「エコペット」を採用した理由などを聞いた。


―CFCLのブランド名は、「Clothing For Contemporary Life (現代生活のための衣服)」ということですが、その理由についてお教えください。

ブランドを立ち上げた2020年の少し前から、ファストファッションの台頭により洋服が過剰に生産され捨てられ、服が世の中に溢れているという状況がありました。

その中で自分がコレクションブランドを立ち上げるにあたって、服を作る意味をしっかりと考えないといけない。「現代社会に必要な服とはなにか」という問いを起点にコレクションを立ち上げることにしました。

現在はテクノロジーの進化が急速に進んでおり、それに伴って時代も非常に早く、ドラスティックに変化していると思います。

しかしながら生活者を第一に考えた際に、服が必要以上に主張する必要はないと考えました。「楽に着ることができ、イージーケアで、社会に対して自分の考え方を軽やかに表現できる洋服を作りたい」という意味を込めて、CFCLというブランド名を付けました。

―高橋さんの考える「長く着続けられる洋服」とはどのようなものなのでしょうか?

CFCLでは、継ぎ目のないニットで作られた滑らかに人に寄り添う洋服のことを「Knit-ware」と表現していて、つまりは「体を包む器のようなプロダクト」を指しています。それは勝負服というより、飽きのこない普遍的な形で、薄皮のような存在であるべき、と考えながらデザインしています。

それに加えて、現代生活の中では、耐久性が高くイージーケアというのも大切な要素だと思いますね。

―ポリエステルのニットを中心に展開している理由についてお教えください。

ブランドとして、クリエイティビティに重きを置きつつ、サステナビリティは当然意識するというスタンスを取っています。

大学生のころに出会った島精機製作所のホールガーメント機に非常に可能性を感じ、その技術を使ってコンピュータープログラミングニットのドレスを作るコレクションブランドを展開したいと考えました。

これまでニットは、ジャージーやセーターなどカジュアルなアイテムに使われてきたという歴史があります。しかしながら、時代の変化とともにニットの持つポテンシャルをもっと拡張できるのではないかと考えました。

CFCLでは、通常は布帛で作るドレスやシャツ、ジャケットなどをニットで作ることで、これまでにないエレガントなテクスチャーや着心地の良さを実現しています。

それと同時に、コンピュータープログラミングニットの服には環境問題に対して2つのメリットがあることにも気付きました。

1つめのメリットは、環境に配慮された糸から直接作り上げることができ、さらに裁断の工程がないことから、素材の無駄が抑えられるという点。

2つめのメリットは、縫製の工程が少ないため、通常の工程で作られる服よりも温室効果ガスの排出量を抑えられ、更にサプライチェーンが短いためライフサイクルアセスメント(LCA)の測定が比較的容易となる点。

ライフサイクルアセスメントにはファーストシーズンから取り組んでいます。各工場が使用している素材・電力・機械などを確認していく必要がありますが、ニットの服は糸から作ることでサプライチェーン自体が短くなり、情報を川上まで遡ることができます。そのため、可能な限り正確な環境負荷の測定が可能となるのです。

CFCLのホームページ上では、コンシャスネスレポートという形でシーズンごとのデータを公開しており、2030年までに認証素材の使用率を100%にするという目標を掲げています。

VOL.7 Collection (2024年春夏)では90.52%が認証素材で、リサイクルポリエステルの比率は全体の78.92%まで向上しました。
https://cfcl.jp/pages/consciousness

―多くの製品が定番として展開されているとのことですね。

ファーストコレクションからPOTTERY SKIRTは丈などを変えながらずっと継続していますし、他の製品も袖や襟の形を変えつつ、基本的には定番として作り続けているものばかりです。

―使う素材に関しても、継続して使い続けているのでしょうか?

現在、1シーズンに120品番ほど発表しているのですが、糸は約10〜15種類を使っています。そのほとんどは過去のシーズンに使ったことがあるもので、シーズンに足される新しい素材は1〜2種類程度です。

これにより、原料の供給を安定させることができ、それが生産の安定へとつながると考えています。従来のブランドでは半年に1回原料を手配したり、仕入れ先を変えたりしますが、CFCLではその必要性がありません。

糸を継続して使うと、メーカーがCFCLの発注を予測して事前に原料をストックしてくれたり、「この素材の撥水素材が欲しい」「この素材をリサイクル原料で作れないか」などというニーズに応じて、メーカー側で数シーズンかけて開発をしてくれるような関係性を築けるというメリットもあります。

―再生繊維を採用するにあたって、さまざまなものを比較検討したと思うのですが、その中から「エコペット」を選んだ理由についてお教えください。

ブランドの立ち上げに向けて動いていた2019年には、オーガニックコットンなどに加えて、植物由来の原料を微生物発酵させて作られたブリュード・プロテインや、トウモロコシから作った生分解性プラスチックなど、さまざまな「サステナブル素材」が存在していました。

イッセイミヤケで働いていた経験から、耐久性や発色、シルエットの作りやすさなど、ポリエステルにさらなる可能性を感じていたのです。

その時代からリサイクルポリエステルとして「エコペット」を使用しており、21_21 DESIGN SIGHTでのインスタレーションなどを通じて、この分野のパイオニアである帝人フロンティアの取り組みも認識していました。

さらに品質もヴァージンポリエステルと遜色なく、価格も抑えられてきたという理由から「エコペット」を選んだのです。

―リサイクルポリエステルの糸は、どのような種類のものを使われているのでしょうか?

光沢感やハリ感など、それぞれに特徴のあるリサイクルポリエステルの糸を10種類くらい使い分けています。

例えばPOTTERY SKIRTの場合は、強い張り感が特徴の「エコペット」の糸を使用しています。それにより立体的なシルエットを作り上げることができ、CFCLのアイコンともいうべきスカートを世の中に提供できていると考えています。

―合成繊維と天然繊維、リサイクル素材とヴァージン素材の使い分けは、どのように考えられているのでしょうか?

例えば、夏の暑い時期はポリエステルにコットンを混ぜると涼しげになり、冬はウールと混ぜれば暖かみを出すことができます。ポリエステルにキュプラを入れて滑らかな落ち感と光沢感を出したり、上質な光沢とドレープ感が欲しいときにはシルク100%で作る場合もあります。

さらに、納得いく質感や雰囲気を出すために天然繊維と「ソロテックス」を併用したり。例えば、今日私が着用しているトップスであれば、キュプラやエコペットに加えて「ソロテックス」を使い、そのストレッチ性によってエレガントなドレープと立体的なシルエットが両立されています。

基本的に「現代生活のあらゆるシーンにフィットする品格を備えた衣服を作る」のが目的なので、それがリサイクル素材だけで実現できない場合は、天然繊維やヴァージン素材も併用しています。

―現状のリサイクルに関して、感じている問題点や課題などはありますか?

サーキュラーエコノミーの考え方の中では、基本的に同じ業種内のクローズドループが望ましいとされていますが、現状リサイクルポリエステル原料のほとんどがペットボトルであるというのは、一つの課題ではないかと思います。

現在ペットボトルからペットボトルへのリサイクルが推進されているため、服に使用できるペットボトルというのは減っていく傾向にあります。その場合、将来的に服から服という循環に取り組む必要があります。

一方で、単一素材、例えばポリエステル100%の洋服はそんなに多くはありません。複合素材も技術的には分離することも可能なようですが、現状では費用対効果の面でまだ実用的ではないのかと思います。

―2024年7月31月 (水) より、伊勢丹新宿店 本館2階 ISETAN THE SPACEにて、インスタレーション「100 colors of skirts emmanuelle moureaux × CFCL Supported by ECOPET®」を行うそうですね。

今回は、東京をベースに活動している建築家/アーティスト/デザイナーのエマニュエル・ムホーさんとコラボレートしたインスタレーションです。ムホーさんは、さまざまな場所で100色で空間を構成する「100 colors」というアート作品を手がけられている方です。

今回はCFCLのアイコニックなアイテムであるPOTTERY SKIRTを一斉に100色並べたインスタレーションを行うとともに、オーダーもできるという試みです。これはコンピュータープログラミングで作るニットならではの企画ではないかと思います。

布帛やジャージーのスカートを量産しようとすると、発注ロットの関係上で1色作るごとに最低の生産数に達しないと生地が無駄になってしまいます。例えば、最低でも50着ほど作らなければならず、さらにカラーバリエーションを展開するとなると、50着×色数を生産しなければなりません。

一方で糸からニットのスカートを作る場合、生地を作るプロセスがスキップされるため、1色においてのミニマムが少ない数で生産できるというメリットがあります。

また、少し前までは「エコペット」は88色での展開だったため、その中に欲しい色がなければ別注で染めていましたが、世の中の「エコペット」に対するニーズが増えてきたこともあり、2024年の初頭には322色展開となった、ということもこのイベントを実現できるきっかけとなっています。

会場では、ペットボトルから一つの製品が生まれるまでのストーリー動画なども展示し、「現代生活のあらゆるシーンにフィットする品格を備えた衣服が、リサイクル素材でも実現することができる」ということも表現しています。

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